


1. 「許可のない残業」は残業代がもらえない?
原則として、残業(時間外労働)は上司(師長や主任)の「業務命令」によって発生します。
そのため、病院側は「許可のない残業は認めない」というルール(申請ルール)を設けること自体は問題ありません。
ただし、現場では「許可」がなくても、実質的に残業せざるを得ない状況があります。
ポイント:「黙示の指示(もくしのしじ)」
法律上、残業命令は「30分残業してください」という明確な言葉(明示の指示)がなくても成立します。
以下のようなケースは、上司が直接「残業して」と言わなくても「黙示の指示」があったと見なされ、残業代の支払い義務が発生します。
- 業務量が明らかに多い
- 定時内に到底終わらない量の業務(記録、翌日の準備、委員会資料作成など)を割り当てられている場合。
- 緊急対応
- ナースコールや急変対応、緊急入院などで定時を過ぎてしまった場合。
- 黙認
- 師長や主任が、部下が定時後も残って記録などをしているのを知っていながら、特に注意もせず(帰宅させず)放置している場合。
病院が「許可がない」ことを理由に残業代を支払わなくてもよいのは、「やる必要のない仕事を勝手にやっていた」場合に限られます。
看護業務(記録や申し送り、患者対応)である限り、たとえ事前の許可がなくても、「黙示の指示」による労働時間(残業)として認められる可能性が極めて高いです。
2. 仕事が遅いという理由で残業できるの?
判断基準は「それが業務命令と認められるか」です。
認められにくいケース
- 時間内に終わる仕事をゆっくり時間をかけておこなっている、自己啓発のための勉強などの場合
- 業務と関係のない私語、スマホいじり、単に更衣室でくつろいでいた場合
- 上司が「今日の業務はここまでで良い。残りは明日やるか、他の人に引き継いで直ちに帰りなさい」と具体的かつ強力に禁止命令を出していた場合
この場合、残業代が支払われない可能性があります。
認められるべきケース
一方、「仕事が遅い」と感じている原因が、明らかに業務量が多すぎる(他の人もギリギリか残業している)ことや、新しく覚えることが多い(教育体制)にある場合…
それは個人の問題ではなく、業務配分の問題です。
この場合は、残業として申告し、認められるべきです。
「労働時間の問題」と「能力・効率の問題」の違い
労働基準法でいう「労働時間」とは、「病院(使用者)の指揮命令下に置かれている時間」を指します。
そこには「どれだけ速く効率的に働くか」という基準は含まれていません。
- 労働時間の問題(残業代)
- 「実際に働いた時間」に対して賃金を支払う義務。
- 能力・効率の問題(人事評価)
- 「仕事が遅い」のは、その人の習熟度や能力の問題であり、それは研修や指導、あるいは賞与(ボーナス)や昇給の「査定」で評価すべき問題です。
3. 残業申請ルールと残業代の境界
この問題の「境界線」は、病院の内部ルール(就業規則や申請フロー)ではなく、「その時間が、客観的にみて病院の指揮命令下にあったかどうか」の一点です。
4.社労士としてのアドバイス
もし「許可がない」「仕事が遅い」といった理由で残業代が支払われていない場合、看護師の皆さんは以下のように対応することが重要です。
- 「労働時間」と「人事評価」を混同しない
「仕事が遅い」と言われても、「時間がかかってしまったのは事実ですが、その時間は業務にあたっていました」と冷静に主張することが大切です。 - 「残業申請」は必ず行う
「どうせ認めてくれない」と思っても、申請(または報告)は必ず行ってください。「黙示の指示」を証明する上で、「病院側が残業の事実を認識していた」という証拠作りに役立ちます。 - 客観的な記録を残す
タイムカードの打刻はもちろん、電子カルテのログイン/ログアウト時間、業務日誌、ナースコール対応記録など、「その時間に働いていた」ことを示す客観的な記録が重要です。
結論:どうすべきか?
どちらの理由であれ、残業が必要だと感じたら、必ず師長さんや主任さんに相談・申告してください。
「(理由)のため、時間内に業務が終わりそうにありません。申し訳ありませんが、あと30分ほど残業してもよろしいでしょうか?」
「いつもこの業務が時間内に終わらず、ご迷惑をおかけしています。どうすれば効率よく進められるか、アドバイスをいただけますか?」
このように「相談」することで、残業の必要性を認めてもらう(=業務命令にしてもらう)こと、そして「仕事が遅い」という悩みを個人で抱え込まず、組織の問題として共有することが、ご自身を守るために最も重要です。













